育てた植物の「ドライ化」テクニック|いけばなとドライフラワーの境界を楽しむ

育て方と管理のコツ

はじめに|「枯れていく美しさ」も、いけばなの一部

いけばなを続けていると、季節の移ろいとともに、植物の姿が変わっていくのを自然に受け入れるようになります。咲いた花が終わり、葉が色づき、茎が乾いていく――そんな過程にも、美しさや意味が宿っていると感じるようになるのです。

私自身、庭で育てた植物を活けたあと、「すぐに捨てるのはもったいないな」と思ったことがきっかけで、ドライ化という選択肢に出会いました。乾いていく植物を、もう一度いけばなに取り入れる。そこには、生花とはまた違った面白さと奥深さがあります。

この記事では、育てた植物を乾燥させて再活用するテクニックと、その魅力的な活かし方について、私の経験も交えながらご紹介します。


    1. はじめに|「枯れていく美しさ」も、いけばなの一部
  1. ドライ化ってなに?|自然乾燥で楽しむ植物の“第二の命”
    1. ドライ化の魅力
  2. 育てた植物を乾かして活かすメリット
    1. ドライ化向き植物が多い!
    2. 「収穫→生ける→ドライ」まで楽しめる!
  3. よく使う植物乾燥のテクニック3選
    1. ① 逆さ吊り乾燥(ハンギング法)
    2. ② グリセリン法(柔らかく仕上げたいとき)
    3. ③ 自然放置乾燥(いけばなの“余韻”として)
  4. ドライ化した植物の活かし方|いけばな×ドライの新しい提案
    1. ドライ花材を加えたいけばな作品
    2. オブジェ風の一輪挿し
    3. 壁掛け・スワッグ風のアレンジ
  5. 私の体験談|「枯れる」という美しさを受け入れる
  6. ドライ化しやすい植物10選|いけばなにも使える素材たち
  7. ドライ化の失敗談と対策|“枯らす”を“活かす”に変えるヒント
    1. 失敗①|カビが生えた!部屋の隅で吊るしていたのに…
      1. 原因
      2. 対策
    2. 失敗②|せっかくの花が、しぼんで黒ずんでしまった…
      1. 原因
      2. 対策
    3. 失敗③|茎がポキっと折れて活けられなかった…
      1. 原因
      2. 対策
    4. 失敗④|グリセリン処理したのにベタついて失敗…
      1. 原因
      2. 対策
    5. 失敗⑤|部屋に干していたら、家族に「ホコリ?」と言われた…
      1. 原因
      2. 対策
  8. 失敗から生まれる、“あなたらしい乾いた美”のかたち
  9. 四季を彩るドライ素材のいけばな活用法|四季の“余韻”を飾る楽しみ
    1. 🌸 春|やわらかな芽吹きの余韻をドライで残す
      1. おすすめ花材
      2. 活用のヒント
      3. ワンポイント
    2. ☀ 夏|香りと涼感をドライで楽しむ
      1. おすすめ花材
      2. 活用のヒント
      3. ワンポイント
    3. 🍁 秋|色づく自然をそのまま閉じ込める
      1. おすすめ花材
      2. 活用のヒント
      3. ワンポイント
    4. ❄ 冬|静寂と温もりをドライで演出する
      1. おすすめ花材
      2. 活用のヒント
      3. ワンポイント
  10. 季節を「乾かして残す」という発想
  11. よくある質問Q&A|初心者でもできる?
  12. コラム|私のドライ化実験記|フジバカマと秋の午後
  13. まとめ|いけばなと“乾いた花材”、そのあわいを楽しもう

ドライ化ってなに?|自然乾燥で楽しむ植物の“第二の命”

ドライ化とは、植物を乾燥させて、長く楽しめるようにする方法です。切り花や葉を「枯れさせる」のではなく、「美しく乾かす」ことで、形や色合いの変化を味わうことができます。

ドライ化の魅力

  • 長く楽しめる:1週間でしおれてしまう花も、数か月〜1年近く飾れます。

  • 違った表情が出る:乾燥によって色が深まり、質感が変わります。

  • 失敗しても味になる:折れたり色落ちしても、味わいに見えることがあります。


育てた植物を乾かして活かすメリット

家庭で育てたいけばな向け植物を、ドライ化して活かすことで、さらに植物との関係が深まります。

ドライ化向き植物が多い!

  • 🌾フジバカマ、シュウメイギク、ミソハギなど、宿根草や秋草はドライにしやすい

  • 🍂ヤナギやドウダンツツジなどの枝ものも、美しく乾きます

  • 🌸ハーブ(ラベンダー、ローズマリー)やグラス類も、香りや形を残せます

「収穫→生ける→ドライ」まで楽しめる!

育てた植物の命をできるだけ長く楽しみたい――その気持ちに寄り添ってくれるのが、ドライ化です。作品としてのいけばなを終えたあとも、ドライの素材として活躍させることで、新たな表現が生まれます。


よく使う植物乾燥のテクニック3選

① 逆さ吊り乾燥(ハンギング法)

もっとも簡単で基本的な方法です。

手順:

  1. 花や葉を束にする(1本ずつでもOK)

  2. 茎の根元をゴムや紐で軽く結ぶ

  3. 風通しのよい日陰に逆さに吊るす(直射日光NG)

  4. 1〜2週間で完成

ポイント:

  • 乾燥中に形が崩れないよう、余計な葉は取り除いておく

  • 茎の太さや湿度によって、乾燥時間が変わる

② グリセリン法(柔らかく仕上げたいとき)

グリセリン液を吸わせて、しなやかさを残す方法です。

手順:

  1. 水:グリセリン=2:1の溶液を作る

  2. 茎を斜めに切って、液に浸ける

  3. 1週間ほど吸わせてから乾かす

向いている植物:

  • ドウダンツツジ、ユーカリ、アジサイなどの枝葉類

注意点:

  • 色が濃く変色することがあります(それも味ですが)

③ 自然放置乾燥(いけばなの“余韻”として)

いけばな作品をそのまま花器に活けて、徐々に乾かす方法。

メリット:

  • 形を保ったまま自然にドライ化できる

  • 活けたまま変化していく姿を楽しめる

向いているケース:

  • ススキや枝もの、秋の草花(フジバカマ、ワレモコウなど)


ドライ化した植物の活かし方|いけばな×ドライの新しい提案

ドライ花材を加えたいけばな作品

生花とドライを組み合わせることで、季節のグラデーションや空気感を演出できます。

例:

  • フレッシュなリンドウ×ドライのミソハギ

  • 生きた枝葉×ドライ化したススキの穂

オブジェ風の一輪挿し

茎が短くなっても、ガラス瓶や竹筒に挿すだけで「静物作品」のような趣に。

例:

  • ドライ化したローズマリーの穂を一本だけ活ける

  • シュウメイギクの茎をあえて曲げて活ける

壁掛け・スワッグ風のアレンジ

乾いた草花を束ねて、自然風の壁飾りに。

例:

  • ラフィアや麻紐で束ねるだけでナチュラルな雰囲気

  • 色あせた実ものや葉のくすみも美しく映えます


私の体験談|「枯れる」という美しさを受け入れる

ある秋の日、庭で育てたフジバカマをいけたあと、そのままにしていたら、数日でやさしく乾き、色がすこし深まっていました。その姿に、「このまま、もう一度活けてみようかな」と思い立ち、次の日に別の枝とあわせていけてみたところ、なんとも言えない落ち着きのある作品になったのです。

**いけばな=“生きているものだけ”**と思っていたころから、だんだんと「いのちの終わりにも美しさがある」と気づくようになりました。


ドライ化しやすい植物10選|いけばなにも使える素材たち

植物名 特徴・見た目 ドライ化のポイント
フジバカマ 細い茎に小さな淡紅色の花が密集 風通しの良い場所で逆さ吊り。色がほんのり残る
ワレモコウ 黒紅色の丸い穂状の小花 自然乾燥で形・色ともに風情が出る
ミソハギ 細長い茎に小花が密に咲く 花の形が崩れにくく、全体がまとまりやすい
ススキ 白銀色の穂が特徴的 逆さ吊りで乾かすと、穂がふんわり仕上がる
ローズマリー 細い茎と針葉、花も楽しめるハーブ 香りが持続し、ドライにしても清潔感あり
ラベンダー 紫色の小花と強い芳香 香りが長く残り、スワッグにも人気
アジサイ 丸く大きな花房 グリセリン法で色持ちが良くなり、華やかさを保てる
ドウダンツツジ 細かく分かれた枝と小さな葉 枝姿をそのまま活かして自然乾燥。冬場は赤く色づくことも
ユーカリ 丸い葉と銀緑の色味 香りと形がそのまま残り、葉が落ちにくい
シュウメイギク 秋に咲く繊細な花と細く長い茎 乾燥で花びらが薄く透け、趣のある質感に変化

ドライ化の失敗談と対策|“枯らす”を“活かす”に変えるヒント

ドライフラワーは気軽に始められる一方で、思わぬ失敗が起きることもあります。私自身、最初は何度も「思ったのと違う……」とがっかりしたことがありました。

でも、失敗には必ず「原因」と「解決策」があるもの。ここでは、実際にあった失敗例と、その後どう工夫したかをご紹介します。


失敗①|カビが生えた!部屋の隅で吊るしていたのに…

ある秋の日、フジバカマを逆さ吊りにしていたところ、2日目には茎の根元に白いふわふわが…。

原因

  • 湿度が高く、空気がこもっていた

  • 茎に余分な葉が残っていた

対策

  • 必ず風通しの良い、直射日光の当たらない場所で乾燥させる

  • 余分な葉は乾燥前に取り除く

  • 除湿機や扇風機を使うと成功率が格段にアップ


失敗②|せっかくの花が、しぼんで黒ずんでしまった…

ラベンダーを干したはずが、香りも飛び、花も黒ずんでしまって台無しに。

原因

  • 直射日光に当てすぎてしまった

  • 高温で一気に乾かそうとした

対策

  • 乾燥は“明るい日陰”が基本

  • じっくり1〜2週間かけて乾かすと、色や香りが長持ちする

  • エアコンの風が直接当たる場所は避ける


失敗③|茎がポキっと折れて活けられなかった…

ススキの穂を飾ろうとしたら、茎の途中でポキン。姿が崩れてしまいました。

原因

  • 乾燥後に無理な角度で立てようとした

  • あらかじめ“形を整えて”干していなかった

対策

  • 乾かす前に活ける姿をイメージして形を整えておく

  • 支柱や紙筒を使って真っすぐ吊るす

  • 折れた場合も、短く切って小瓶に活けるなど工夫次第で再利用可


失敗④|グリセリン処理したのにベタついて失敗…

アジサイの枝をグリセリン液に入れたら、ヌルッとベタついて失敗。色も濁ってしまった。

原因

  • 液の濃度が高すぎた

  • 浸けすぎて吸い上げすぎた

対策

  • グリセリン:水=1:2の薄めの割合から試す

  • 茎の下1〜2cmだけを浸け、様子を見る

  • 時間は1〜2日で十分。色が変わりすぎたら水洗いして自然乾燥に切り替え


失敗⑤|部屋に干していたら、家族に「ホコリ?」と言われた…

ドウダンツツジのドライをさりげなく飾ったら、家族に「掃除忘れてるの?」と勘違いされてしまいました。

原因

  • 花材の色や形が地味になりすぎていた

  • 飾り方に「意図」が見えにくかった

対策

  • 1〜2種の素材を「まとめて飾る」ことで作品感が出る

  • 瓶や花器を工夫して“飾る意識”を見せる

  • 他のグリーンや流木と組み合わせても◎


失敗から生まれる、“あなたらしい乾いた美”のかたち

乾かして楽しむ技法は、失敗を重ねるほどコツが身につきます。うまく乾かせなかった花も、短く切って添え花にしたり、重ねて束ねたりすれば、いけばなの一部として生まれ変わります。

「完璧に仕上げる」のではなく、植物が乾いていく“ありのままの姿”を活かすのもまた、ドライならではの楽しみ方。

まずはひとつ、庭の草花を吊るしてみることから始めてみませんか?

四季を彩るドライ素材のいけばな活用法|四季の“余韻”を飾る楽しみ

ドライフラワーは、花が終わったあとも季節の記憶を部屋に残してくれる素材です。いけばなで使った植物をそのまま乾かしてもよし、意図的に“乾きゆく美”を取り入れてもよし。
ここでは、季節ごとのおすすめ花材と飾り方のヒントを紹介します。


🌸 春|やわらかな芽吹きの余韻をドライで残す

おすすめ花材

  • ミモザ:鮮やかな黄色とふわふわの花房

  • ユーカリ:丸葉と香りが持続

  • スイートピー:薄く透ける花びらが乾くとアンティーク調に

  • ビオラ・パンジー:押し花にしても可愛い

活用のヒント

  • グラスベースに1〜2本だけ挿すと、春らしい軽やかさが表現できる

  • ミモザは小さなリースにしても映える

  • いけばなの「花がら」としてさりげなく添えるのも◎

ワンポイント

フレッシュな花材との組み合わせで「春から初夏への移ろい」を表現してみましょう。


☀ 夏|香りと涼感をドライで楽しむ

おすすめ花材

  • ラベンダー:紫の花穂と豊かな芳香

  • ミント:清涼感ある葉と香り

  • スモークツリー:もこもこの質感が魅力

  • ローズマリー:細い葉が作品に軽さを与える

活用のヒント

  • 涼しげなガラス花器や白磁の器に活けて、空間に「清涼感」を演出

  • ラベンダーやミントは吊るして香りのインテリアにも

  • スモークツリーは生花のユリやリンドウと組み合わせても相性◎

ワンポイント

暑さで植物が持たない時期だからこそ、“乾いた美しさ”を逆手に取る活け方を試してみては。


🍁 秋|色づく自然をそのまま閉じ込める

おすすめ花材

  • フジバカマ:乾いても色が残る秋の風情

  • ワレモコウ:黒紅の穂が作品を引き締める

  • ミソハギ:穂状の花が崩れにくい

  • ノイバラの実:赤い実が彩りに

  • ススキ:ふわりとした穂が風情を演出

活用のヒント

  • 陶器や竹の器と合わせて、和のニュアンスを引き立てる

  • 赤や紫、茶などくすみカラーのドライ素材でまとめると、深みのある作品に

  • 実ものは束ねてスワッグにしても美しく長持ち

ワンポイント

秋はいけばなとドライの“境界”がもっとも自然に混じり合う季節。ぜひ、作品の中に「枯れゆく美」を意識的に取り入れて。


❄ 冬|静寂と温もりをドライで演出する

おすすめ花材

  • ドウダンツツジ:乾くと赤茶色になり、静かな雰囲気に

  • ネズの実:青みがかった実がアクセントに

  • アジサイ(グリセリン処理):ふっくらした質感と色合いを維持

  • ユーカリ(銀世界風):寒色系の葉で冬の冷たさを表現

活用のヒント

  • ガラスドームや深い器で静かな冬の室礼

  • ドライの枝ものに金銀の水引や布飾りを添えて、迎春花にも応用可

  • 殺風景になりがちな冬の部屋に、静けさと奥行きを加える花材として

ワンポイント

花の少ない冬だからこそ、「乾いた美」を主役に。**空間を静かに引き締める“余白の表現”**を楽しみましょう。


季節を「乾かして残す」という発想

いけばなは、生きた植物を使う芸術です。けれど、その命の終わりや、枯れていく姿にも美しさがある――それに気づくと、いけばなとドライフラワーの境界がゆるやかにつながっていきます。

季節が過ぎても、その名残を部屋に留めておけるドライ花材。ぜひ、“乾いた季節感”を活けるという新しい視点を、日々の中に取り入れてみてください。

よくある質問Q&A|初心者でもできる?

Q. ドライ化って初心者でもできますか?
A. はい。逆さ吊り乾燥から始めるのがおすすめです。難しい道具や薬品は不要で、自然乾燥でも十分美しい仕上がりになります。

Q. 色がくすむのが心配ですが?
A. ドライ化は色が変わるのも魅力の一つです。あえてくすんだ美しさを活かす活け方を考えてみましょう。

Q. どんな植物でもドライにできますか?
A. 水分の多い植物(チューリップ、ヒマワリなど)は難しいですが、細身の枝や草花、穂ものは比較的成功しやすいです。

コラム|私のドライ化実験記|フジバカマと秋の午後

庭の隅に、毎年そっと咲いてくれるフジバカマがあります。いけばなで活けると、どこか儚げで、秋の空気そのものを切り取ったような風情が好きで、私はこの草花にずっと惹かれてきました。

ある年、いつもなら活け終わったあとに処分してしまう茎を、なんとなく捨てるのが惜しくなって――思い立ったように、束ねて吊るしてみることにしました。
物干しの陰、風が通る場所。特に道具も使わず、ただ輪ゴムでまとめてぶら下げただけでした。

数日経って様子を見ると、フジバカマは花びらが少し縮みながらも、全体の姿をそのまま保っていました。色も思ったより残っていて、どこかセピア色の写真のような雰囲気。
そのドライになったフジバカマを、小さな陶器の花器にそっと挿してみると、これがなんとも味わい深い。

生花とは違う、時間の積み重なりを感じさせる静けさ。香りこそないけれど、そこに「秋の午後」のような空気が、確かに漂っている気がしたのです。

それ以来、「静かに変化していくものを、そのまま飾る」ということに、抵抗がなくなりました。むしろ、“今の姿”を活けるといういけばなの本質に、少し近づけたような気がしています。


まとめ|いけばなと“乾いた花材”、そのあわいを楽しもう

育てた植物をドライ化して活かすことで、いけばなの表現がさらに広がります。フレッシュな姿から、時間を重ねていく変化、そしてドライとなったあとまで――そのすべてを「美」として受け取ることで、植物との関係はより豊かになります。

ぜひ、いけばなの延長としての“ドライの美”を、暮らしの中で楽しんでみてください。

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