はじめに|「枝の構成」が作品を決める
いけばなを始めたばかりの頃、「どの枝を主にするか毎回迷う」という声をよく聞きます。私自身も、枝を何本か手にしては「これが主枝?副枝の方が立派かも」と悩んだ経験があります。
でも、「主枝・副枝・控え枝」の役割と選び方を理解すると、構成がスムーズになり、作品のバランスも整ってきます。
この記事では、初心者にもわかりやすく、主枝・副枝の基本と構成のコツを体験談とともにご紹介します。
主枝・副枝・控え枝とは?基本の三役を理解しよう
いけばなでは、「主枝・副枝・控え枝」という三本を軸に作品を構成します。それぞれの役割や向きが空間のリズムを作ります。
名称 | 役割 | 特徴 | 向きの例 |
---|---|---|---|
主枝 | 作品の中心・動きの軸 | 一番長く、力強い | 前上がり・斜め上 |
副枝 | 主枝を補いバランスを取る | 中くらいの長さ | 左右や後方へ |
控え枝 | 安定感や奥行きを出す | 一番短い | 手前や足元付近 |
この3つの組み合わせで、「動き・リズム・空間の抜け感」が生まれます。
主枝の選び方|「作品の方向性」を決める1本
✔ 動きに注目:曲線か直線か
主枝は作品の“軸”。曲線の枝でやわらかな雰囲気、直線で力強さを表現できます。
私も、静かな作品には細めで曲がった枝を、印象を強めたいときは太めの直線枝を主枝に選びます。
✔ 長さを基準に選んでもOK
初心者は「一番長い枝」を主枝にすると、安定感が出しやすくなります。
✔ 曲線 or 直線?枝の「動き」に注目
主枝は、その作品のテーマや雰囲気を決める大黒柱。枝ぶりを見て、「この曲線を見せたい」「この力強さを生かしたい」と感じる1本を選ぶのがポイントです。
私の場合、「今日は静かな作品にしたいな」と思ったときは、やさしく湾曲した細めの枝を主枝に選びます。一方で、力強い印象を出したいときは、太めで直線的な枝を使います。
✔ 迷ったら「一番長い枝」を主枝に
初心者のうちは、長さを基準に選ぶのもOK。作品全体の高さを支える軸として、一番長い枝を主枝に選ぶことで安定感が生まれます。
副枝の選び方|「主枝を引き立てる」パートナー
✔ 長さは主枝の2/3〜1/2が目安
副枝は、主枝よりも少し短め。主枝と交差するように配置することで、作品に奥行きや動きが出てきます。
✔ 向きは“逆方向”に逃がして
たとえば主枝が右上に向かっているなら、副枝は左側に倒すように構成するのが基本形です。主枝と副枝が同じ方向を向くと、単調になってしまうため、「バランスの逆方向」を意識しましょう。
控え枝の選び方|「奥行きと支え」を担う名脇役
✔ 控え枝は最も短く、手前に
控え枝は作品に落ち着きや安定感を加える存在。主枝と副枝に動きがあるぶん、控え枝が“足元”を支えてくれます。
地面に近い場所、花器の口元にさりげなく入れることで、作品全体が引き締まります。
枝の構成のコツ|自然なバランスをつくる5つのヒント
1. 「三角形」を意識する
主枝・副枝・控え枝を三角形になるように配置すると、自然な動きが生まれます。
2. 「重心」は花器の中心やや前に
見た目の重心が後ろすぎると不安定に見えるため、やや手前寄りにまとめると◎。
3. 長さにリズムをつける
3本とも同じ長さにならないように、主>副>控えと長さに差をつけることで、立体感が出ます。
4. 枝元をしっかり処理する
太すぎる枝元は切り口を斜めに整え、水の吸い上げも意識しましょう。
5. 活ける前に仮構成してみる
実際に花器に入れる前に、床やテーブルの上で仮構成してみるとイメージがつかみやすいです。
主枝・副枝・控え枝の構成実例|3パターンで学ぶ枝選びのコツ
構成の理論はわかっても、実際に活けるとなると「どう配置すればいいの?」と戸惑うこともありますよね。ここでは、季節ごとの代表的な植物を使って、主枝・副枝・控え枝の組み立て方を3パターンご紹介します。
【春】ユキヤナギのしなやかさを活かして
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主枝:軽くカーブした長めの枝(約50cm)
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→ やわらかな曲線を右上に向かって伸ばすように配置。
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副枝:横に広がる短めの枝(約35cm)
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→ 左側に低く流し、主枝の動きと対比を生む。
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控え枝:足元を引き締める小枝(約20cm)
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→ 花器の口元に短く入れ、重心を安定させる。
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ポイント:ユキヤナギの繊細な葉と小花を“動き”として活かす構成。枝先の方向を揃えすぎないことで、自然な空気感が出ます。
【夏】ドウダンツツジで涼感と立体感を演出
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主枝:やや太めで縦に伸びた枝(約55cm)
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→ 直線的に立ち上げて、涼やかな印象を強調。
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副枝:曲線的に湾曲した枝(約40cm)
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→ 左後ろに向けてカーブを描かせ、空間に奥行きを出す。
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控え枝:細くて短い枝(約25cm)
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→ 手前に傾けて入れ、視線を前に引き戻す効果を狙う。
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ポイント:葉の密度と透け感を利用し、枝間の“抜け”を意識することで、夏らしい風通しのよい作品に。
【秋】ナナカマドで動きと実の存在感を引き立てる
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主枝:赤い実のついた長めの枝(約60cm)
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→ 斜め上方向に伸ばし、実が映える角度に調整。
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副枝:細身で横に流れる枝(約40cm)
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→ 実のない枝を副枝にし、主枝の“実の存在”を引き立てる。
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控え枝:短くて曲がった枝(約20cm)
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→ 枝元のラインに沿わせて、全体の流れをまとめる。
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ポイント:秋の静けさや成熟を感じさせるように、枝先の動きを控えめに。実の位置と重心に注意してバランスをとると、落ち着いた印象に仕上がります。
こうした具体的な構成を何度か試していくと、自然と「枝の選び方」と「空間の作り方」の感覚がつかめてきます。構成は“手を動かしながら覚える”のが一番の近道です。
流派による構成の違いとその魅力|「型」から自由へ
いけばなにはさまざまな流派があり、それぞれに構成の考え方や美意識が異なります。「主枝・副枝・控え枝」という三役の基本は多くの流派に共通していますが、枝の配置や空間の扱い方には微妙な違いがあります。
ここでは代表的な流派を例に、構成の考え方の違いを見てみましょう。
池坊(いけのぼう)|「型」の美と理論的構成
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特徴:いけばなの元祖とされる流派。三役に基づく厳密な構成理論を持つ。
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構成:真(しん=主枝)・副(そえ)・控(たい)の「三才(さんさい)」構成が基本。
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角度や長さの比率が明確に定められており、理論的で整った美しさが特徴。
初心者には「型」の安心感があり、繰り返すうちに構成力が養われます。
小原流(おはらりゅう)|「写景(しゃけい)」から「自由表現」へ
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特徴:自然の風景を再現する「写景盛花」が有名。
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構成:三役に加えて“水際”の見せ方が重要視され、空間の切り取り方にこだわる。
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現代では「自由花」にも力を入れており、表現の幅が広い。
写実と抽象の両方が学べるため、「表現したい気持ち」を形にしやすいのが魅力。
草月流(そうげつりゅう)|自由で現代的な構成
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特徴:枝や花だけでなく、異素材(鉄・紙・布など)も取り入れる自由な流派。
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構成:三役にとらわれない「造形的な構成」が多く、個性を重視。
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斬新な空間構成や強い造形美が支持されている。
主枝・副枝の概念に縛られず、「自分が主役だと思った枝が主枝」という考え方も受け入れられる。
初心者にとってのヒント|「どの流派でも三役の感覚は活きる」
流派ごとの構成の違いはあれど、どれも「作品をどう見せたいか」という想いが基本にあります。最初は池坊のような型で基本を学び、慣れてきたら小原流や草月流のように個性を表現するスタイルへとステップアップしていくのもおすすめです。
構成に“正解”はなく、「枝の動きと空間の対話」を楽しむことこそ、いけばなの醍醐味です。
身近な植物で構成練習してみよう|“選ぶ・組む・活けてみる”ステップ練習
「主枝・副枝・控え枝の構成」と聞くと、難しそうに感じるかもしれません。でも、身の回りにある植物を使えば、お金をかけずに気軽に構成の練習ができます。
ここでは、公園や庭、花屋で手に入りやすい植物を使った、簡単な構成トレーニングをご紹介します。
Step1|まずは「3本の枝」を探してみよう
はじめに、「主枝になりそうな枝・副枝になりそうな枝・控え枝になりそうな枝」を探します。以下の植物は手に入りやすく、構成練習にぴったりです。
🌿 練習におすすめの植物
植物名 | 特徴 | 練習しやすい理由 |
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ドウダンツツジ | 線が美しく、曲線の変化も多彩 | 枝数が多く、選びやすい |
ユーカリ | 銀青色の葉が美しい | 枝の硬さが安定して扱いやすい |
アイビー | 柔らかくて自在に曲がる | 控え枝や添え葉としても活躍 |
ヤツデ | 太めの枝と大きな葉が特徴 | ボリュームのある副枝に最適 |
南天 | 実と葉を使い分けできる | 枝先の動きが豊かで主枝に◎ |
🌱ポイント:剪定のついでに切った枝や、落ちていた枝を使ってもOKです。
Step2|「長さ」と「向き」で役割を決める
枝を3本選んだら、それぞれの特徴を見ながら以下のように役割を振り分けてみましょう。
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主枝:最も長く、動きのある枝。中心となる存在。
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副枝:中くらいの長さ。主枝と交差するように流れをつくる。
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控え枝:短くて控えめ。作品に落ち着きと重心を加える。
このとき、「枝がどこに向いているか」に注目して配置を考えると、自然なリズムが生まれます。
Step3|床の上で“仮構成”してみる
いきなり花器に挿すのではなく、床や机の上に並べて構成を考えるのがおすすめです。
📏 仮構成のポイント
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主枝を中央に立ててイメージする
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副枝を左右や後ろに寝かせて配置
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控え枝を足元に添えるように置く
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3本の枝で「三角形」を描くような関係をつくる
紙の上にスケッチしてみるのも良い練習になります。枝を“線”としてとらえると、構成のバランスがつかみやすくなります。
Step4|実際に花器に活けてみよう
仮構成でバランスがとれたら、いよいよ花器に挿してみます。最初は剣山やオアシスを使うと安定しやすく、枝の位置も微調整しやすくなります。
✔ コツのチェックリスト
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主枝がまっすぐ立ちすぎていないか?(自然な角度に)
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副枝と主枝が向かい合っているか?(空間に動きがあるか)
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控え枝が重心を取っているか?(足元が寂しくないか)
失敗しても大丈夫。枝の角度を変えてみたり、思い切って組み替えてみたりすることで、自然な形が見えてきます。
Step5|作品を眺めて「振り返り」をしてみる
最後に、活け終わった作品を正面からだけでなく、横や斜めからも見てみましょう。
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どこに動きがある?
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空間の“抜け”は感じられる?
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重たい印象になっていない?
私はいつも、活けたあとの作品にしばらく時間を置いて向き合うようにしています。そうすると、「もう少し左に流した方がいいな」など、小さな気づきが生まれます。
練習を重ねることで“目”が育つ
構成の練習は、やればやるほど“空間を見る目”が育っていきます。特別な花材がなくても、日々の暮らしの中に構成のヒントはたくさん隠れています。
例えば──
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雨上がりに拾った枝に、思わぬ美しさを見つける
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ベランダのアイビーが自然に絡む様子に動きを感じる
そんな瞬間こそが、構成の感覚を磨いてくれる時間だと感じています。
うまく構成できなかったときのリカバリー法|失敗から学ぶ“整え直し”のコツ
構成を考えて活け始めたものの、「あれ、なんだかしっくりこない……」「バランスが悪い気がする……」と感じた経験はありませんか?
実は、それこそが構成力を育てるチャンスです。
この章では、よくある失敗パターンとその**立て直し方(リカバリー法)**を、体験談も交えてご紹介します。
① バランスが崩れて不安定になったとき
よくあるケース
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主枝が傾きすぎて全体が倒れそう
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副枝と控え枝が弱すぎて支えられていない
リカバリーのポイント
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主枝をほんの少し内向きに角度修正するだけで安定感が出ます
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副枝の位置を下げて、足元の空間を締め直すことで重心が落ち着きます
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それでも難しいときは、一度すべて抜いて「控え枝→副枝→主枝」の順に挿し直してみましょう
📝 私の体験談
はじめてドウダンツツジで作品を構成したとき、主枝が美しく反っていたのですが、その分、先が重くて前に倒れてしまいました。思いきって副枝を後ろ向きに強めに出したところ、視覚的にも物理的にも安定し、全体の流れもよくなったのを覚えています。
② 主枝の存在感が強すぎる or 弱すぎるとき
よくあるケース
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主枝だけが目立ってしまい、他の枝が埋もれる
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または、主枝が細すぎて存在感がない
リカバリーのポイント
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主枝が強すぎるとき:副枝を反対方向にしっかりと伸ばすとバランスが整います
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主枝が弱いと感じるとき:枝先に少し装飾的な葉を残す、角度を変えることで見せ場をつくる
🌿 補足テクニック
花材を変えずに印象を整えるには、**「枝を回転させる」**のがとても効果的です。ほんの少し枝をひねるだけで、見え方ががらりと変わることがあります。
③ 枝の流れが単調で“動き”が感じられないとき
よくあるケース
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全ての枝が同じ方向、同じ角度になってしまう
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上下差・長さのメリハリがなく、のっぺりとした印象に
リカバリーのポイント
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副枝または控え枝を“思い切って短く”切ることで、主枝との対比を強調
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空間が詰まっている場合は、1本減らして“抜け”をつくるのも効果的です
💡 構成を崩さずに変化をつける小技
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同じ枝を「上下逆に使う」
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茎の途中をカットして短く活ける
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葉を数枚落として枝の線を目立たせる
④ 枝の表情が生きていないと感じたとき
よくあるケース
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枝ぶりはいいのに、構成すると“動き”や“個性”が消えてしまう
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活けたときに「枝の魅力が伝わらない」と感じる
リカバリーのポイント
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一度、“枝そのものを観察し直す”時間をとるのがおすすめ
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どこに面白い曲がりがあるのか、どの角度が一番美しいかを再確認
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枝の“見せたい部分”が正面を向くように調整することで、表情がぐっと生きてきます
🔁 再構成は“失敗”ではなく“進化”
失敗したと思った作品も、枝を抜いて向きを変えて、また活け直すうちに、「これが一番いい形かも」と思える構成に出会えることがあります。
⑤ 花器や花留めが合っていなかったとき
よくあるケース
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枝が重くて剣山で固定できない
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口の広い器で枝が倒れてしまう
リカバリーのポイント
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器を変える or 花留めを工夫することで解決することもあります
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剣山の代わりにオアシスや竹製の花留めを試す
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花器の深さや重さを変えるだけで、驚くほど構成が安定することも
🎨 私は、うまくいかないときは“器を変える”のがひとつのリセットだと思っています。 器が変わると、自然と構成の考え方も変わってくるからです。
「迷いながら活けた日」が、いちばん勉強になる
構成に迷ったとき、活けては抜き、向きを変え、また考えて……。そんな時間こそ、いけばなの奥深さと向き合っている時間だと私は思います。
決まらないときは、一度離れて作品を眺めてみたり、少し時間を置いたりするのもおすすめです。
構成は「センス」ではなく、「観察と試行錯誤の積み重ね」で育つ力。迷いながら進めるその過程が、次の作品をきっと豊かにしてくれます。
よくある質問Q&A|枝選びの疑問に答えます
Q. 主枝を決めた後、副枝がしっくりこないときは?
A.無理に枝数を増やすのではなく、枝の向きや角度を少し変えてみましょう。作品に余白をつくるのも大切です。
Q. 枝に葉がついていると構成しにくいのですが……
A. 葉はすべて残す必要はありません。構成の邪魔になる部分は思いきって取り除くのもテクニックの一つです。
まとめ|「枝の三役」を味方にすれば、構成はこわくない
いけばなにおける主枝・副枝・控え枝の構成は、最初はむずかしく感じるかもしれません。けれど、それぞれの役割と向きを理解すれば、枝の選び方や配置が自然と見えてきます。
私も、はじめのうちは失敗の連続でしたが、あるとき「今日はこの枝を主役にしてみよう」と思いきって活けたことで、構成の面白さに目覚めました。
大切なのは、「どう見せたいか」「どんな動きを活けたいか」という自分の感覚を信じること。枝たちと対話しながら、あなただけの作品を楽しんでくださいね。