はじめに|色合わせは「選ぶ技術」ではなく「感じ取る力」
いけばなで色合わせに迷うとき、
その理由の多くは 「色そのもの」を見てしまっている からです。
本来の色合わせとは、
色を揃えることでも、派手さを演出することでもありません。
色には、季節の気温・空気・光が宿っています。
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春 → やわらかい明度
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夏 → 透明感と青み
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秋 → 深みと陰影
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冬 → 静けさと対比
色を見るとは、
“いまどの季節を生けているか”を選ぶ行為 なのです。
色合わせの基本|3つの視点で“季節が整う”
① 色の「温度」を読む
色には、暖かさ・冷たさがあります。
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暖色(赤・橙・黄) → 春〜秋の季節感
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寒色(青・紫・白) → 夏〜冬の静けさ
同じ赤でも、
春の赤は軽く、秋の赤は深い。
色は季節の温度を決める鍵 です。
② 明度・彩度の差をつける
初心者がよく陥るのが「同じ強さの色を揃えてしまう」こと。
強い × 強い → 重い
弱い × 弱い → ぼやける
作品が美しく見えるのは、
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強い色(主役)
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中間の色(つなぎ)
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弱い色(余白を作る)
この3階層が揃ったときです。
③ “花より葉”を見る
花の色より、葉の色の方が作品全体の印象を決めます。
同じ赤い花を使っても、
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緑の濃い葉 → 夏の香り
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少し黄味が入った葉 → 秋の気配
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つやのある葉 → 冬の凛とした空気
葉は、作品の“季節の背景”。
まず葉を選び、
その葉に合う花を選ぶほうが成功しやすいのです。
季節ごとの色合わせ例|色が変われば“季節”が変わる
🌸 春|やわらかい光と芽吹きの色
特徴:明度が高く、彩度は控えめ。
例:薄桃、若草色、白、黄色の淡色
春のコツ:
白を少し入れると、空気が一気に“春”になる。
☀ 夏|透明感・涼しさ・陰影
特徴:青み、白、深い緑
例:白百合、フトイ、ギボウシ、青紫蘭
夏のコツ:
“影”がまとまる色を揃えると、涼しさが増す。
🍁 秋|深さ・陰影・温かさ
特徴:赤・橙・黄・渋緑
例:紅葉、ダリア、吾亦紅、ススキ
秋のコツ:
濃淡の差をつける。1色だけ強くても成立する。
❄ 冬|静けさ・対比・凛とした存在感
特徴:白・深緑・黒・赤(点で使う)
例:椿、松、南天、千両、雪柳
冬のコツ:
色数を減らし、対比を強くすると季節感が際立つ。
花材選びの基準|色より“何を語る花材か”を見る
色がきれいでも、
季節とズレていると作品は落ち着きません。
花材選びは、次の3つを基準にすると迷わなくなります。
● ① その花材は“いま”美しいか
季節外の花を使うと、色合わせが難しくなります。
旬の花材は色に迷いがなく扱いやすい。
● ② 花材の“語りたい方向”が揃っているか
色だけで選ぶと方向が散ります。
例:
春 → 上へ伸びる
夏 → 曲線・揺れ
秋 → しっとりと下がる
冬 → 強い線・低重心
色より「方向」で季節が決まることも多い。
● ③ 葉の量と色が作品の空気をつくる
葉が濃い → 深さ
葉が薄い → 軽さ
葉が斑入り → 動き・光
葉を見れば、作品の“温度”が決まります。
稽古で使える|色合わせチェックリスト
※生ける前/途中/仕上げ前の 3回 使うのがおすすめ
① 生ける前|「季節の温度」は決まっているか
まずここを確認すると、8割迷いが減ります。
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☐ 今日の作品は 暖かい季節感/冷たい季節感 のどちらか
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☐ 春・夏・秋・冬の どの時期の空気 を生けたいか言葉にできる
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☐ 花材の色が、その季節の光や気温とズレていない
👉 迷ったら
「この色、今の外の空気と合っている?」と自分に聞く。
② 主役の色|“一番語る色”は一つだけか
色が散る原因の多くはここです。
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☐ 作品の中で 一番強い色は一色だけ
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☐ その色は「季節を代表する色」になっている
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☐ 他の色は、主役を邪魔していない
👉 よくあるNG
強い色が2色以上 → 視線が迷子になる
③ 補助の色|主役を支えているか
主役を引き立てる色は、必ず必要です。
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☐ 主役より 少し弱い色 が入っている
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☐ 補助の色は「つなぎ役」になっている
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☐ 主役と同じ方向に“季節感”を語っている
👉 判断の目安
補助色がなくても主役が成立するか?
→ 成立するならOK、成立しないなら補助が必要。
④ 葉の色と質感|季節の“背景”は整っているか
花よりも重要なチェック項目です。
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☐ 葉の色が季節と合っている
(濃緑=深さ/淡緑=軽さ) -
☐ 葉の量が多すぎない(色の面積が重くなっていない)
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☐ 葉の艶・硬さが作品の季節感と一致している
👉 ポイント
「花を変えなくても、葉を変えれば季節は変わる」
⑤ 明度・彩度|強弱の段階があるか
全部同じ“強さ”は一番失敗しやすい。
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☐ 強い色(主役)がある
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☐ 中間の色(つなぎ)がある
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☐ 弱い色・白・影になる色がある
👉 チェック方法
目を細めて見たとき、
色に「奥行きの段差」が感じられるか。
⑥ 色数|多すぎていないか
初心者ほど色を入れすぎがちです。
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☐ 基本は 2〜3色以内
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☐ 4色以上ある場合、理由を説明できる
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☐ 「きれいだから」だけで入れていない
👉 迷ったら
1色抜いてみる → それで良くなったら正解。
⑦ 生けながら|色が“動きすぎて”いないか
途中確認用です。
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☐ 視線があちこちに散らない
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☐ 色の流れに方向性がある
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☐ 余白が色を受け止めている
👉 合言葉
「色が主張していないか、季節が語っているか」
⑧ 仕上げ前|最後のひと問い
完成直前に、これだけ自分に聞いてください。
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☐ この作品、どの季節か一言で言える?
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☐ 色を説明するとき「色名」ではなく「季節の言葉」が出る?
例)
✕「赤と緑です」
◎「晩秋の深さ」「冬の凛とした空気」
稽古での使い方・おすすめ
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生ける前:①②④を確認
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途中:⑤⑦で調整
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仕上げ:⑧で最終判断
これを繰り返すと、
色合わせ=感覚 → 判断基準 に変わっていきます。
色合わせがうまくいかないのは、
センスがないからではありません。
見る順番を知らないだけ です。
このチェックリストは
「色を見る目」を「季節を見る目」に育てるための道具。
どうぞ、稽古の横に置いて使ってください。
体験談|色ではなく“季節”を見たら作品が整った日
ある日の稽古で、私は春に深い赤を使っていました。
花材も美しい。構成も悪くない。
でも先生は言いました。
「この作品は“秋の温度”をしていますね。」
その瞬間、私は色ではなく季節を見ていなかったことに気づきました。
花材を薄桃に変えただけで、
作品はふっと軽くなり、空気が春へと戻りました。
色合わせとは、
色を揃えることではなく“季節の温度を整えること”。
その気づきで、作品の見え方が大きく変わりました。
実践|色合わせに迷ったら試したい3ステップ
STEP1|まず“季節の温度”を決める
温かいのか、冷たいのか。
軽いのか、深いのか。
STEP2|主役の色 → 補助の色 → 余白の色 の順に決める
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主役:季節の主張
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補助:主役を支える
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余白:影と空気を整える
順番で決めると、混乱しません。
STEP3|“葉の色”が季節と合っているかを確認
葉がズレていると、作品全体が季節外れに見えてしまいます。
葉を季節に合わせるだけで、7割整います。
よくある失敗と直し方
| 状態 | 理由 | 改善策 |
|---|---|---|
| 色が多く散らかる | 主役がいない | 主役の色を一つに決める |
| 季節感が弱い | 花だけで考えている | 葉の色と質感から季節を選ぶ |
| 重く見える | 明度差がない | 明るい色を少し入れる |
| 淡すぎてぼやける | 彩度が低すぎ | 1点だけ強い色を入れて締める |
色合わせは“色の足し算”ではなく、
季節をひとつに絞る作業 です。
Q&A|色合わせに迷ったときに思い出す3つの視点
Q:色合わせの正解がわかりません。
A:季節の“温度”を決めれば正解が見えます。色ではなく空気で判断します。
Q:色が強すぎると感じたら?
A:補助の葉や弱い色を増やして「受け皿」を作ると、主役が自然に馴染みます。
Q:季節の色と違う色を使ってはいけない?
A:使えます。ただし“主役にはしない”こと。点で使うと個性として活きます。
まとめ|色は“季節を語る言葉”
色合わせとは、
ただきれいな色を並べることではありません。
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色の温度を読む
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明度・彩度の差をつける
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葉で季節を整える
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主役の色を一つに決める
これだけで、作品は自然に季節の表情を帯びます。
どうか慌てず、
まずは「今日はどんな季節を部屋に呼び込みたいか」を考えてみてください。
その答えが、
あなたの作品の色を決めてくれます。

